コンテンツマーケティングについて書かれているブログや書籍を見ても、「よく分からん」となりませんか?
見出しは豊富なのに内容が基本的なことしか書いてなかったり、デジタル業界や自分の専門ではない業界のことが題材になっているためピンとこない、具体的なイメージができないんですよね。
食べ物を取り扱っている誰もが知っている有名企業のコンテンツマーケティング事例を深堀りしつつ、Webディレクターの視点から「コンテンツマーケティングの目的や効果」「素晴らしいポイント」を解説。
その上で、「自社でコンテンツマーケティングに取り組むならどうすればいいのか」について書きました。
「コンテンツマーケティングなんてよく分からん」と言ったことがある方に読んでいただきたいです。
コンテンツマーケティングへの中小企業の認識
コンテンツマーケティングは情報発信ということはご存じの方が多いと思うのですが、
「情報発信=宣伝」と誤解している方や
「専門的な商品を扱っているから営業パーソンのサポートが必要」と考えている方、
「ホームページからまともな問い合わせが届いたことがない」というこれまでの経験から
「宣伝にもならない情報発信にお金と労力をかけるくらいなら、1本でも多くの電話をかけろ!(足を運べ!)」というのが中小企業のリアルだと思います。
コンテンツマーケティングの導入しやすさ
自社が導入しやすいかどうかどうかは、発信する情報と自社商品の距離によって決まります。
大まかに分けると
- コンテンツ=商品
- コンテンツ→商品
- コンテンツ→n→商品
といったケースが考えられます。
1>2>3の順番で導入への理解が得られやすい(容易)ですし、成果が出るまでのスピードも1>2>3の順番で早くなります。
※nが大きくなればなるほど時間と労力がかかります。
それぞれを個別に解説していきますが、
- 1はコンテンツそのものに価値があって商品になっているケース
- 2はコンテンツに出会うことで商品を購入(消費)したくなるケース
- 3は複数のコンテンツ体験を通じて商品を購入したくなるケース
とお考えください。
1.コンテンツ=商品のコンテンツマーケティング
コンテンツそのものに価値があるケースです。
映画やアニメ、書籍やまんが、音楽などが代表的なコンテンツです。
一般的な「コンテンツ」へのイメージにも合致するのではないでしょうか。
題材は
- 1-1.VOD
- 1-2.小説
- 1-3.まんが
- 1-4.その他
です。
1-1.VOD(ビデオオンデマンド)業界
Disney+、Amazon Primeビデオ、Netflix、Hulu、U-NEXT、GYAO!、dtv、他各種テレビ局が運営しているサービスがあります。
映画.comによると、
SVOD(定額見放題サービス)の利用者数は2021年8月末時点で合計4,400万人。
映画.com
そのうち、Amazon Prime Videoの加入者数は1,460万人で33%のシェアを占め、Netflixは600万人、2020年にサービスを開始したばかりのDisney+は180万人とのことです。
このタイプは「配信本数24万本以上!」(U=NEXT)といったコンテンツの豊富さ(量)や、Disney+のディズニー、ピクサー作品やAmazonやNetflixなどのオリジナル作品、各種テレビ局制作ドラマなどの「ここでしか見れない」といった独創性(限定性)やどういったタイトルが並んでいるかというコンテンツの質が選ばれる大きな要因になります。
私もAmazon Prime Videoは加盟しています。
Prime会員のおまけに付いていて、「これいいじゃん」となってそのままです。
映画はシリーズものなら新作公開前にそれまでの作品が公開されますし、ゲッターロボやマジンガーZなど懐かしのアニメなどを追加しているため、コンテンツ事業への本気度が伺えます。
「全部観たいなー」と思いつつラインナップを眺めてます。
消化できる時間より追加されるタイトルの方が多いんですよね…。
1-2.小説
小説を簡単に投稿できるプラットフォームを提供し、小説を書きたい人と読みたい人が集まり、集まった人へ向けて広告を出すことで収益を上げるモデルです。
小説家になろう(ヒナプロジェクト)、カクヨム(KADOKAWA)、アルファポリス(アルファポリス)といった小説投稿サイトは無料で閲覧可能です。
人気作品になると、書籍化やコミカライズ化、アニメ化といったメディアミックスの道が開けることもありますし、積極的にマネジメントしている事業者もあります。
プラットフォームである程度ファンもついてますし、ふるいにかけられた後なのでメディア展開する際も失敗しにくいのでしょう。
2017年くらいからずっと追いかけている作品もあり、ランキングも眺めることが多いのですが、2019年あたりからメディア化のサイクルが早くなったように感じます。
メディア担当の青田買いの場所になってるのかもしれません。
1-3.まんが
Webサイトで展開するWeb漫画から、スマホアプリに移っています。
Web漫画は小説投稿サイトと同様に人を集めて広告を出すモデルなのですが、漫画アプリはアプリ内通貨(コイン)を使って作品の1話単位で購入するようなサービスが多いです。
Web漫画の代表格は、となりのヤングジャンプ(集英社)、ヤンマガWeb(講談社)、裏サンデー(小学館)など。
漫画アプリは、ジャンプ+(集英社)、マガポケ(講談社)、マンガワン(小学館)、マンガUP(SQUARE ENIX)、めちゃコミック(アムタス)などが有名どころです。
1-4.その他
堅苦しくなるので、あえて省きましたが、士業やコンサルタント、先生業などの知識や情報そのものが商売道具だったり、課題に合わせた製品や解決方法を提案するソリューション営業なども発信する情報と商品の距離がとても近いです。
よくある質問や事例紹介といったコンテンツが「求めていたそのものズバリ」になることもあったりしますし、ノウハウを体系化してガイドブックや書籍にまとめれば、コンテンツ=商品になるのが特徴です。
映画やアニメなどの映像作品や、小説・まんがなどはコンテンツの表現方法として、自社を知ってもらうためにも役立つので、頭の片隅に置いておいてください。
ここからは商品を取り扱っている企業のコンテンツマーケティングを紹介しています。
それぞれ集客(誘因)やブランディングによる差別化、情報収集などが目的になっています。
2.コンテンツ→商品のコンテンツマーケティング
コンテンツに出会うことで商品を購入(消費)したくなるケースです。
題材となるのは「キッコーマン」です。
2-1キッコーマンのコンテンツマーケティング
醤油やみりんを筆頭に調味料を製造しているメーカーです。
説明する必要がないくらいの超有名企業ですよね。
キッコーマンは、ホームクッキング(https://www.kikkoman.co.jp/homecook/index.html)というWebサイトで料理のレシピや調理の下ごしらえなどのコンテンツを発信しています。
私はコロナの影響で毎日外食生活から9割自炊生活になったので、めちゃくちゃお世話になってます。
調味料を意識することはあまりなかったのですが、わざわざキッコーマン製品を探すようになりました。(「本日限り!」「チラシの品!」などがあると比べてしまい…ますが。)
自分の行動変容を細分化すると、
美味しそうと思って料理を作る
レシピへの好印象=キッコーマンへの好印象を抱く
料理を作るに従って、調味料がだんだん減っていって無くなる
親近感があるのでキッコーマン製品を探す。
お世話になってるし、ちょっとくらい高くてもいいや。
というのが一連の流れです。
最後の選択部分なんて「返報性の法則」ってやつですね。
※お世話になってるからお返ししたくなるって法則です。
カテゴリ設計と網羅性に注目
ひとつひとつのレシピ、料理を作り、カメラマンが撮影するというコンテンツ自体のクオリティも高いのですが、「21時以降クッキング」「10分以内の手軽な副菜」「速攻おつまみレシピ」などのユーザー視点でカテゴリを設計しているのが素晴らしいです。
旬の食材を使ったレシピを掲載することで毎日の食卓を預かる主婦向けのコンテンツから、「料理の基本」といった初心者向けコンテンツ、きっずキッチンといった食育コンテンツなど幅広いユーザー層をカバーしています。
もちろん各コンテンツの厚みも凄いです。
レシピはどんどん追加されていってますし、クオリティは高い。
特定のジャンルにおいて情報が豊富にあればあるほど(網羅されていればいるほど)利便性が高いサイトですよね。
ユーザーの評価も高まりますし、Googleの評価も高くなります。
同程度のクオリティ・規模を中小企業が取り組むのは非現実的ですが…。
かなりの予算を用意するか、専任のスタッフを数人任命して全権限を渡した上で、1年計画で見守れば可能かもしれません。
3.コンテンツ→n→商品のコンテンツマーケティング
複数のコンテンツ体験を通じて商品を購入したくなるケースです。
nが1だと、コンテンツと出会うことで行動が生まれて、行動の結果生まれるお悩みやお困りごとに商品が役立ちます。
ちょっと分かりにくいですよね。
事例を見ていきましょう。
3-1.旭化成ホームプロダクツのコンテンツマーケティング
主力商品はサランラップやジップロックです。
自社商品を使った保存テクニックと、料理レシピを紹介しています。
- 保存テクニック(https://www.asahi-kasei.co.jp/saran/preservation/)
- レシピライブラリ(https://www.asahi-kasei.co.jp/saran/recipe/)
保存テクニックはn=0ですが、 レシピはn=1のコンテンツです。
レシピはキッコーマンだとn=0ですが、旭化成ホームプロダクツだとn=1になるのが面白いですよね。
同じコンテンツを発信しても、取り扱い商品によってステップが変わるということです。
導線設計に注目
主力商品の訴求ポイントをコンテンツとして設置することで、他商品との差別化を図ろうとしています。
問い合わせや申し込みの場合はCTA(コールトゥアクション)と呼びますが、特定のコンテンツを閲覧してもらう場合は、キラーページと呼びます。
サランラップやジップロックなどは類似商品が極めて多く、違いが分かりにくい商品です。
「使ってみないと分からない商品」を取り扱っている方には参考になる使い方だと思います。
ここまで違う!サランラップ(https://www.asahi-kasei.co.jp/saran/products/saranwrap/difference.html)
1週間分の食材を土日でまとめ買い!といった世帯なら、安いラップを使うより、サランラップの方がいいと思いました。
3-2.KAGOMEのコンテンツマーケティング
主力商品はトマトジュースや野菜ジュース、トマトケチャップです。
野菜をテーマにしたVEGEDAY(ベジデイ)というメディアを運営しています。
カテゴリは野菜の種類、野菜の栄養・効果、野菜を選ぶ・保存する、野菜を調理する、野菜を育てるといった企業としての専門性を活かしています。
また、VEGEDAYというメディア運営を通じて野菜に興味を持っているユーザーの「野菜」に対する定量・定性調査をすることが目的かと思います。
アンケートは全部で18問。
もちろん、真面目に答えました。
専門性と信頼性に注目
メーカーとしての専門性があるにも関わらず、官庁や学術的なデータを元に記事を作っているところが素晴らしいです。
[切り干し大根は栄養の宝庫]なんとカルシウムは大根の20倍!
https://www.kagome.co.jp/vegeday/nutrition/202002/10526/
は600字ほどの記事なのですが、
出典:
https://www.kagome.co.jp/vegeday/nutrition/202002/10526/
厚生労働省e-ヘルスネット(食物繊維の必要性と健康)
日本食品標準成分表2015年版(七訂)野菜類
日本スポーツ振興センター(切り干し大根の特徴)
札幌市子ども未来局「切り干し大根をもっと食べましょう」(切り干し大根の戻し方、保存)
これだけの根拠を元に作成されています。
自社の専門性に慢心することなく、記事の信頼性を客観的なデータで補足する
そもそも切り干し大根から日本スポーツ振興センターや札幌市子ども未来局にたどり着ける時点で専門性がないと無理な気がします。
事例の素晴らしい点をおさらい
参考になる点が5つあったのでおさらいしておきましょう。
- ユーザー視点でのカテゴリ設計
- 訪れたユーザーを満足させるラインナップ(網羅性)
- メーカーとしての専門性があっても慢心しない
- 官庁や学術的なデータを使って記事の信頼性を高める
- キラーページを記事下に設置する導線設計
こういった素晴らしいサイトを見ると、Webディレクターとしては、ほれぼれします。
UXを考えて作られた設計に予算と人員と時間をたっぷり注いで作り上げたぜいたくなサイトですからね。
料理人が高級食材をふんだんに使った料理を見たら似たような気分になるかもしれません。
自社がコンテンツマーケティングに取り組むなら?
まずは自社の商品と情報発信の距離を測りましょう。
- 1コンテンツ=商品なら、取り組まないのはもったいない。
- 2コンテンツ→商品なら、3か月~半年程度の計画を立ててみましょう。
- 3コンテンツ→n→商品なら、半年~1年程度の計画を立ててじっくり取り組みましょう。
自社の商品とコンテンツがつながるまでのステップ数(n)を割り出して、
どういったコンテンツを作ればいいのか、どうすれば来てくれた人が喜んでくれるのか
を計画に書き出して、
- 必要なコンテンツ数
- 作成するために必要な人員と時間
- または予算
を確保しましょう。
一部の天才以外は計画を立てないと失敗しますし、計画を立てておけば失敗した時に分析ができます。
コンテンツの量や質、やり方、担当者、外注業者、外部環境などを振り返れば、転ばぬ先の杖になってくれます。
失敗をすることは悪くありません。
同じ失敗を繰り返すこと、反省しないことが悪いのです。
コンテンツマーケティングの第一歩を踏み出そう
今回ご紹介した「メディアサイトの運営」は敷居が最も低いコンテンツマーケティングの第一歩です。
コンテンツを作って情報を発信することで、潜在層・顕在層ともに良い印象を持ってもらうことができて、接触頻度が高まることでこれまでの行動が変化(行動変容)が見込めます。
ぜひコンテンツマーケティングに取り組んでみてください。